医療法人の相続・事業承継

第6次医療法改正により、持分ありの社団医療法人は経過措置医療法人と呼ばれるようになり、持分なし医療法人のことを新医療法人と呼ばれるようになりました。この経過措置医療法人が現在の医療法人の大半を占めています。
この経過措置医療法人の出資持分の相続税評価額が高額になっている場合には、相続事業承継対策が必須になってきます。
そして平成26年度税制改正により医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度が創設されました。
医療法人の相続を検討するうえで注意が必要なケースがあります。それは一般企業には適用できる以下の相続対策の方法は医療法人には認められていない点です。

  1. 相続税の納税猶予の制度
  2. 自社株を取得すること

医療法人の相続事業承継を検討するにあたっては、この持分ありの社団医療法人をどのような組織として相続を考えていくかが大変重要になってきます。

  1. このまま一般の経過措置型医療法人でいくか
  2. 一般の経過措置型医療法人から
  • ① 経過措置型医療法人のうち出資額限度法人への移行
  • ② 出資持分なし(基金拠出型法人を含む)医療法人への移行
  • ③ 特定医療法人への移行
  • ④ 社会医療法人への移行

1の経過措置型医療法人のままを選択した場合

メリット

  • 出資持分をもったまま、そしてオーナーシップをもったまま事業承継ができる。

デメリット

  • 相続税が多額になる可能性がある。

2①の出資額限度法人への移行

メリット

  • 後継者でない出資者から出資持分の払戻しを求められても、出資金のみの払戻しでよいため、多額の資金流出が起こらない。

デメリット

  • いつでも出資額限度法人をやめることができるため、相続が発生した場合の出資持分の相続税評価は出資持分の評価ではなく、多額になる可能性がある。
  • 出資持分の払戻しを行った場合に、他の出資者に対して贈与税が発生する(みなし贈与)

2②出資持分なしの医療法人への移行

メリット

  • 持分を放棄することになるので、相続税の評価額は0となる。なお基金拠出型法人の場合には基金相当額が評価額となる。

デメリット

  • 持分なしとなることによって残余財産は自分のものでなくなります。
  • 持分を放棄することにより、医療法人に財産が贈与されたものとして医療法人に対して贈与税が課税される問題が生じます。(これを相続税法66条4項の問題といいます。)

この贈与税の問題を避けるため、以下のケースに該当しない場合には贈与税を課さないこととしています。(これを相続税法施行令33条3項の要件といいます)

具体的には
① 医療法人の運営が適正であること
② 役員等のうち親族関係者を3分の1以下とすること
③ 親族関係の役員に施設の利用や資金の貸付けなど特別な利益を与えないこと
④ 親族が運営するMS法人との取引について特別な利益を与えないこと
⑤ 法人が解散した場合には、残余財産が国等に帰属すること
などがあります。

  • 持分なしの医療法人への移行は上記の問題をクリアする必要があります。そしてオーナーシップもなくなることになります。
  • 持分なしへ移行しても、従前の理事長やその親族が行っていた借入金の連帯保証は消えないのが普通です。

2②-1 オーナーシップを維持したまま持分なしへ移行

贈与税の課税を受けてでも、オーナーシップを維持したまま持分なしへ移行するメリットを考えると

  • 出資金評価の心配をすることなく今後の経営ができる
  • 財産価値が0なので遺産分割から出資持分を除ける
  • 役員の年俸で高額報酬が取れる
  • 贈与税を支払うのは医療法人のため融資が受けやすい
  • オーナーシップがなくなってしまうと、理事長解任の恐れがあったが、人事問題に気を使う必要がなくなる

結局のところオーナーシップを維持し続けたい場合には
① 持分ありのままで相続が起こり相続税を支払うか
② 持分なしに移行する際に贈与税を支払い、相続税の心配から逃れるか
のどちらかの選択ということになります。

この場合には医療法人の出資持分の評価を行い、上記①、②のどちらが有利になるかを検討してくことになります。
贈与税のほうが相続税より税金が高いのは周知の事実ですが、相続税を支払う原資は通常医療法人からの役員報酬です。この役員報酬には所得税がかかります。また相続税を延納した場合の延納にかかる利子税は経費になりません。
一方法人が支払う贈与税の支払いのために融資を受けた場合には、その利息は損金算入ができますし、法人税率は所得税率よりも有利ですので、法人の内部留保で支払うほうが理事長親族には楽かもしれません。

2③特定医療法人への移行

メリット

  • 特定医療法人は国税庁長官の承認を受けた医療法人で、法人税率が軽減(19%、年800万円までの部分は15%)されるので税金が節税できます。
  • 特定医療法人への移行は持分を放棄しますが、上記2②のように相続税法66条④の問題は生じません。

デメリット

  • 持分なしとなることによって残余財産は自分のものでなくなります。
  • 医療法人のオーナーシップがなくなります。
  • 特定医療法人の承認には一定の要件を満たす必要があります。
  • 持分なしへ移行しても、従前の理事長やその親族が行っていた借入金の連帯保証は消えないのが普通です。

2④社会医療法人への移行

メリット

  • 社会医療法人は、法人税が非課税となっているので税金が節税できます。
  • 社会医療法人への移行は持分を放棄しますが、上記2②のように相続税法66条④の問題は生じません。

デメリット

  • 持分なしとなることによって残余財産は自分のものでなくなります。
  • 医療法人のオーナーシップがなくなります。
  • 社会医療法人の承認には一定の要件を満たす必要があります。
  • 持分なしへ移行しても、従前の理事長やその親族が行っていた借入金の連帯保証は消えないのが普通です。

(結論)

医療法人の相続事業承継を考えると結局以下の4つの選択肢があると思います。

  1. 相続税が高額になっても、オーナーシップを守るために経過措置型医療法人のままでいき、通常の民間会社のように相続税対策を行う。
  2. 後継者への相続を行わない場合には、経過措置型医療法人のまま経営を続け、しかるべき時期にM&Aを行い資金化する。
  3. オーナーシップを放棄し、地域医療のため医療法人存続を考える。その見返りとして相続税の心配は消える。
  4. オーナーシップ維持のために、あえて医療法人で贈与税課税を受けて移行する。しかし相続税の心配は消える。

相続税・贈与税の納税猶予制度をどう考えるか

平成26年税制改正により、納税猶予制度が創設されました。この制度をどう考えるかということですが、まず以下の点が重要になります。

  • 納税猶予制度ができたからといって、オーナーシップを維持したまま持分なしへ移行すると、医療法人は贈与税を負担する(相続税法66条④)必要があります。決して医療法人側に贈与税が課税されることからは逃れられません。
  • この制度の最大のメリットは、相続が開始した後でも納税猶予を適用できる余地があるという点です。従来ですと持分なしへ移行しようと思っている間に相続が起こってしまった場合には、多額の相続税の負担がありました。

しかし納税猶予制度の創設のおかげで、相続が起こった後で、持分なし医療法人へ移行するかどうかを検討することができる(つまり時間稼ぎができる)ようになったということです。この時間稼ぎという点で非常に効果的な制度であるといえます。

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